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最高裁判所第三小法廷 昭和54年(あ)1145号 判決 1980年1月11日

主文

原判決中「当審における未決勾留日数中二二〇日を原判決の刑に算入する。」との部分を破棄する。

原審における未決勾留一一二日を本刑に算入する。

その余の部分に対する本件上告を棄却する。

理由

検察官の上告趣意は、判例違反をいうが、所論は原判決が何ら法律判断を示していない事項に関する判例違反の主張であり、弁護人野崎研二の上告趣意は事実誤認の主張であり、同平松敏則の上告趣意は、単なる法令違反、事実誤認の主張であつて、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

検察官の所論にかんがみ、職権で調査すると、本件記録並びに当審で顕出された前科調書によれば、被告人は、昭和五一年三月二四日本件につき勾留のまま浦和地方裁判所に起訴され、同年一一月五日保釈により釈放されたが、その後、同五二年一月一七日同裁判所において、懲役一年四月(未決勾留日数一六〇日算入)に処せられ、保釈の失効により即日収監されたこと、被告人は、同月二七日右判決に対し控訴の申立をし、同年一二月一五日保釈により釈放されたが、同五四年四月二三日原裁判所(東京高等裁判所)において、「本件控訴を棄却する。当審における未決勾留日数中二二〇日を原判決の刑に算入する。」との判決の言渡しを受けたこと、他方、被告人は、本件とは別の覚せい剤取締法違反被告事件(以下「別件」という。)につき、同五一年一一月六日勾留状の執行を受け、同月一五日勾留のまま浦和地方裁判所に起訴され、同五二年六月七日同裁判所において、懲役二年及び罰金七五万円(換刑処分一日二〇〇〇円、未決勾留日数一三〇日を右懲役刑に算入)の判決を受けたが、同月一〇日右判決に対し控訴の申立をし、同年一二月一五日保釈により釈放されたこと、その後、被告人は、右別件につき、同五三年一一月二八日、東京高等裁判所において、「本件控訴を棄却する。当審における未決勾留日数中一五〇日を原判決の懲役刑に算入する。」との判決を言い渡され、同年一二月六日上告したが、右上告は、同五四年六月一日決定により棄却され、右別件第一、二審判決は、同年七月六日確定したことが、明らかである。

ところで、すでに明らかなとおり、本件に対する原審の未決勾留(被告人の本件控訴申立の日である昭和五二年一月二七日から保釈により釈放された同年一二月一五日までの計三二三日)は、別件に対する未決勾留と重複しており、この重複する未決勾留のうち、別件の第一審判決が本刑に裁定算入した一三〇日のうちの五八日(右一三〇日から、別件第一審の未決勾留期間中本件未決勾留と重複していない昭和五一年一一月六日から同五二年一月一六日までの七二日を差し引いたもの)、刑訴法四九五条一項により別件の本刑により法定通算されるべき三日(別件第一審判決言渡の日である昭和五二年六月七日から控訴申立の前日である同月九日まで)及び別件の第二審判決が本刑に裁定算入した一五〇日の合計二一一日は、別件の確定によつてすでにその本刑たる自由刑の執行に替えられている。したがつて、原判決がこのまま確定すると、その裁定算入した未決勾留二二〇日のうち一〇八日は、別件ですでに自由刑の執行に替えられた未決勾留と重複して算入されているため、被告人に不当な利益を与える結果となることが明らかである。

このように、被告人が複数の勾留状により拘束されている場合において、他事件に対する裁判の確定によりその本刑たる自由刑の執行に替えられるべき未決勾留と重複する未決勾留をさらに当該事件の本刑たる自由刑に算入したときは、右裁判は、後に他事件に対する裁判が確定したことによつて、結局、違法なものとなると解すべきである(最高裁昭和四八年(あ)第八三四号同年一一月九日第二小法廷判決・刑集二七巻一〇号一四四七頁参照)。

この見地に立つて本件をみると、原判決言渡し当時においては、別件第一、二審判決は、上告中であつたから、原判決が別件の確定によりその本刑たる自由刑の執行に替えられるべき未決勾留二一一日と重複する未決勾留一〇八日をその本刑たる自由刑に算入したとしても、直ちに違法なものとはいえないが、その後、別件第一、二審判決が確定したことにより、原判決は、結局、すでに別件で本刑たる自由刑の執行に替えられた未決勾留と重複する未決勾留一〇八日をその本刑たる自由刑に算入したことに帰するから、原審における未決勾留の期間中、一一二日を超えて原審の未決勾留日数を本刑に算入した点において、刑法二一条、刑訴法四九五条に違反することに帰し、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められるから、同法四一一条一号により破棄を免れない。

よつて、刑訴法四一三条但書により、原判決中「当審における未決勾留日数中二二〇日を原判決の刑に算入する。」との部分を破棄し、刑法二一条により原審における未決勾留日数中一一二日を本刑に算入することとし、原判決のその余の部分についての各上告については、刑訴法四一四条、三九六条によりこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

この判決は、裁判官横井大三の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。

裁判官横井大三の反対意見は、次のとおりである。

わたくしは、原判決の未決勾留日数の算入部分に誤りがあり、その余の部分に誤りがないとする点で、多数意見と見解を一にするが、このような場合に、原判決の未決勾留日数算入部分のみを破棄するという多数意見の見解は、元来不可分であるべき一個の判決の一部破棄を認める点で、理論上疑問があると考える。わたくしの見解によれば、本件における主文の表示は、「原判決を破棄する。本件控訴を棄却する。原審における未決勾留日数中一一二日を本刑に算入する。」となる。

(江里口清雄 高辻正己 環昌一 横井大三)

検察官の上告趣意<省略>

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